前回は「いつも自分にどんな言葉をかけていますか?~自己評価と達成力⑩」というお話しでした。
※前回記事はこちら
今回も前回に引き続き、セルフトーク(内声言語、自己対話)についてで、「言葉は魔術!?~自己評価と達成力⑪」というお話です。
やはり、言葉は「魔術」
「セルフトーク」が重要だとはいっても、所詮、精神的なことであって内面の現象であり、物理現象として見えているこの世界には影響を及ぼさないのではないか?
そういう意見もあるかもしれません。
ところが、『夜と霧』というアウシュビッツ強制収容所での、実体験に基づく人間の様を描いた書籍で、著者のV.E.フランクル氏は、
勇気と落胆、希望と失望というような人間の心情の状態と、他方では有機体の抵抗力との間にどんなに緊密な連関があるかを知っている人は、失望と落胆へ急激に沈むことがどんなに致命的な効果を持ち得るかということを知っている〉
『夜と霧』V.E.フランクル、p.181
と述べています。
ここでいう「心情」とはセルフトークを指しますが、マイナスのセルフトークによって、実際の物理である肉体面にも大きく影響を及ぼしてしまうということが、この一文からもわかるのです。
「grammar(グラマー)」は「文法」という意味の英語ですが、この単語の語源は「魔術」という意味だそうです。
言葉を読み書きできる能力は、ほかの動物が持たない人間の特権であり、この『夜と霧』の例からも、人間はある種「言葉を操る魔法使い」といえるのかもしれません。
セルフトークの「言葉」次第で、内面世界だけではなく、物理世界にも影響が出てしまうからです。
だからこそ、「プラスのセルフトーク」を普段から心がけるべきなのです。
2006年のイタリア・トリノ冬季五輪女子フィギュアスケートで、金メダルに輝いた荒川静香さんが、2006年12月23日付のある新聞のインタビューで、次のように言ったそうです。
「“Think Positive”をおくります。何事もプラス思考で。たとえ、今、最悪な状況だな、と思っても、それ以上、悪くはなりえないから大丈夫、などと、少しでも前向きな考え方ができれば、状況も少しずつ好転していくのではないでしょうか。
余裕がない中で、いかに余裕を作れるかが勝負だと思う。(中略)
そして、大人になっても、希望は子どものように捨てないで。そうすることで、自分を楽にできるかもしれません」
「“Think Positive”」「大人になっても、希望は子どものように捨てないで。そうすることで、自分を楽にできるかもしれません」などは、まさに「プラスのセルフトーク」といえます。
前述した『夜と霧』で、アウシュビッツ強制収容所から生き残った人々は「希望」を持っていたといわれています。
人間はすぐに、マイナスの悪い方向に考えがちです。
「あっ、バカ!」「しまった、何でこんなミスするんだよ!」等、自らを落としてしまうマイナスの言葉を自分にかけていませんか。
私自身も、常にセルフトークを見張るようにしています。
物事を行動に移す前から、マイナスのことについて考える愚かさを、バスケットボールの神様といわれたマイケル・ジョーダンは、
「私は大事なショットを外した後のことなんて考えたことがない。もし考えたならいつも悪い結果を思ってしまうからさ」
というように表現したとされています。
また、たとえ、世間一般から見るとその出来事がマイナスの内容としてとらえられるような出来事であったとしても、自身も同じようにネガティブに評価する必要性がないことを、本田圭佑選手が述べています。
本田選手は、無得点に終わり、チームも負けてしまったある試合後のインタビューで、
「あまりネガティブに考える必要はないのかなと思う。いい時間帯もあったし、あの失点がなければ今日は勝って、まったく別の会話になっていたと思う」。
(日刊スポーツ・コム 2015年2月15日配信記事)
と語ったとされています。
世間から見ると、マイナスに評価される出来事であったとしても、自身はその中からプラスの面にフォーカスし、決してマイナスのセルフトークを受けつけない。
さすがは本田選手です。
また、テニスの錦織圭選手は、テレビ番組のインタビューで「自分には才能があると思い込んでます」というコメントを残しています。
このようにセルフトークが自身の能力発揮に、大きく影響するのです。
プロ野球の中畑清さん(横浜DeNAベイスターズ元監督)は、現役時代によく「絶好調」という言葉を使っていました。
このことについて、次のように述べています。
「もちろん、調子が悪いときもありました。でも言葉の力は不思議なもので、『絶好調』と口にすると、本当にそうなっていくんです。一種の自己暗示ですね」
やはり、言葉は「魔術」といえます。